鹿島建設は、2026年3月期に、連結売上高3兆672億円、営業利益2,407億円、経常利益2,404億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,773億円を計上した。建設事業受注高は3兆2,639億円である。売上高は前期比5.3%増、営業利益は同58.5%増、当期純利益は同40.9%増であった。売上高、営業利益、当期純利益、受注高はいずれも過去最高で、5期連続の増収増益となった。利益が大きく伸びた主因は、建設事業の売上総利益率の向上である。
建設会社の連結売上高が3兆円を超えたのは、業界でも特筆すべき水準だ。鹿島建設は、日本を代表するスーパーゼネコンの中でも、最大級の会社である。しかし、この数字を見て「大きい会社だ、安定していそうだ」とだけ受け取るなら、この会社の本質を読み違える。
このレポートは、先に作成した無料の業界レポート「建設・住宅・土木・道路・設備工事業界 | 就職するならどの会社?」を前提とする。その業界レポートの中心命題は、こうだった。建設業界は、「地図に残る仕事」という美しい言葉だけで選んではいけない。発注者、行政、協力会社、下請、孫請、現場で働く人々、地域社会、契約、安全、品質、工期、原価を統合する、責任の業界である。
この見方を、鹿島建設に当てはめる。鹿島建設に入るとは、「地図に残る仕事」に参加することではない。発注者、行政、協力会社、下請、地域社会、契約、安全、品質、工期、原価を統合し、巨大な現場責任を引き受ける側に立つことである。
読者には、鹿島建設を「大手だから安定」「地図に残る仕事ができる」「スーパーゼネコンだからすごい」という表面的な見方ではなく、「どの職種で、どの現場責任・契約責任・安全責任・事業責任を背負う会社なのか」として読んでほしい。
感情で動くな。勘定で動け。
第1章 結論:鹿島建設は「地図に残る仕事」ではなく「巨大な責任を統合する会社」である
鹿島建設は、売上高3兆円超、スーパーゼネコン最大級の会社である。しかし、この会社を正しく理解するには、規模の大きさではなく、その規模が何を意味するかを見なければならない。
売上高3兆円とは、それだけ巨大なプロジェクトを、同時に、数多く動かしているということだ。一つひとつの現場には、発注者がいて、行政の許認可があり、多数の協力会社と下請が関わり、現場で働く人々がいて、近隣の地域社会がある。そして、契約があり、守るべき安全があり、保証すべき品質があり、間に合わせるべき工期があり、収めるべき原価がある。
鹿島建設は、これらすべてを統合する立場にある。単なる「建物を作る会社」ではない。建築、土木、開発、海外、技術研究、現場統括、協力会社管理、法務・契約、安全責任を、一手に抱える、巨大な総合建設会社である。
だから、結論はこうだ。鹿島建設に入るとは、地図に残る仕事に参加することではない。巨大な責任を統合する側に立つことである。
この会社で働くことの本質は、憧れの建物を作る喜びではなく、巨大な現場を破綻なく回し切る責任にある。この責任の重さを理解し、それを引き受けられるかどうかが、鹿島建設の向き不向きを分ける。
第2章 鹿島建設は何で稼ぐ会社なのか
鹿島建設の事業は、大きく建設事業、開発事業等、そして国内・海外の関係会社事業から成る。単純に「建築と土木の会社」と見るだけでは足りない。
2026年3月期のセグメント別の状況を見ると、単体の土木事業は、売上高4,307億円、営業利益767億円であった。大型工事の施工が順調に進み、売上総利益率が大幅に向上したことで、営業利益は前期比114.9%増と倍増した。
単体の建築事業は、売上高1兆1,829億円、営業利益832億円である。大型工事の施工量が増え、利益率も向上し、営業利益は同62.6%増となった。建築は、売上規模で土木の倍以上あり、鹿島建設の売上の大黒柱である。
開発事業等は、売上高964億円、営業利益176億円であった。開発事業は、ゼネコンでありながら、不動産開発の利益を取り込む領域であり、年度によって業績の振れが大きい。
国内関係会社は、売上高4,146億円、営業利益357億円である。建設資機材の販売、専門工事、リース、ビル賃貸などを担い、保有不動産の売却もあって、営業利益は前期比118.1%増と大きく伸びた。
そして海外関係会社は、売上高1兆919億円、営業利益266億円である。北米、欧州、アジア、大洋州などで建設・開発を展開する。海外関係会社の売上が1兆円を超えていることは、注目に値する。鹿島建設の売上の3分の1強は、海外から来ている。
ここから分かるのは、鹿島建設が、国内の建築・土木を軸としながら、不動産開発で利益を取り込み、海外で売上の大きな部分を稼ぐ会社だということである。
翌期は減益予想――市況の循環を見落とさない
もう一つ、重要な事実がある。鹿島建設は、2027年3月期について、売上高2兆9,000億円、営業利益2,000億円と、減収減益を見込んでいる。
2026年3月期が過去最高益だったからといって、それが永遠に続くわけではない。建設業は、資材価格、人件費、受注のタイミング、開発物件の販売時期などによって、業績が振れる。過去最高の数字だけを見て「この会社は伸び続ける」と考えるのは、危うい。
第3章 土木の鹿島、建築の鹿島、開発の鹿島――どの鹿島に入るかで仕事は変わる
「鹿島建設に入る」と一括りに考えてはいけない。鹿島建設は、土木に伝統的な強みを持つが、建築も開発も海外も大きい。そして、どの領域に関わるかで、仕事の中身はまったく変わる。
土木
土木は、鹿島建設の伝統的な強みである。道路、橋梁、トンネル、ダム、鉄道、港湾といった、社会の基盤を作る仕事だ。多くは公共工事であり、防災・減災、国土強靱化、老朽化したインフラの更新が、長期的なテーマになる。
土木の仕事は、案件が長期にわたり、公共性が高く、安全責任が重い。高い技術力と、地域社会への対応が求められる。地味に見えるが、社会を根底で支える、専門性の高い領域である。
建築
建築は、売上規模で鹿島建設の最大の柱である。超高層ビル、再開発、工場、データセンター、半導体工場、生産施設、宿泊施設、物流施設などを手がける。
建築の仕事は、顧客の要求が多様で、短い工期が求められ、大規模な設備を伴うことも多い。設計・施工・設備の連携、品質・工期・原価の管理が、決定的に重要になる。特にデータセンターや半導体工場は、AI・デジタル時代の成長領域であり、建築事業の追い風になっている。
開発
開発は、ゼネコンでありながら、不動産開発の利益を取り込む領域だ。オフィスビル、物流施設、再開発、PFI、国内外の不動産開発を手がけ、物件の売却や賃貸から収益を得る。
これは、工事を請け負って対価を得るゼネコン本来のビジネスとは異なり、自ら不動産の価値を作り、その価値を収益化する事業である。開発に関われば、ゼネコンの枠を超えた、不動産デベロッパー的な経験を積める可能性がある。
海外
海外は、鹿島建設の売上の大きな部分を占める。北米、東南アジア、欧州、オセアニアなどで、建設、不動産開発、設計、エンジニアリングを展開している。
海外の仕事では、国内とはまったく異なる難しさがある。契約、法務、税務、為替、現地の法律、JV、エージェント、贈収賄の防止。これらが、国内以上に重い論点になる。海外に関われば、グローバルな建設・開発の経験を積めるが、その分、契約や法務のリスク管理が問われる。
第4章 スーパーゼネコン内で鹿島建設をどう見るか
鹿島建設を、単体で理解するだけでは足りない。同じスーパーゼネコンである清水建設、大林組、大成建設、そして非上場の竹中工務店との比較の中で見て、はじめて、就職・転職先としての鹿島の位置づけが明確になる。
「スーパーゼネコンなら、どこでも同じだ」という見方は、誤りである。鹿島を選ぶとは、どの責任、どの事業構造、どのキャリアリスクを選ぶことなのか。それを、比較の中で見る必要がある。
| 会社 | 就職・転職先としての見方 | 確認すべき論点 |
|---|---|---|
| 鹿島建設 | 規模、土木・建築・開発・海外を持つ最大級の総合ゼネコン | 巨大案件、海外、開発、現場責任、契約・独禁法リスク |
| 清水建設 | 建築色が強く、歴史・品質・技術の印象が強いスーパーゼネコン | 建築寄りの配属可能性、収益改善、技術研究、配属領域 |
| 大林組 | 建築・土木・都市開発・海外・技術を広く持つバランス型 | 国内外の大型案件、技術系キャリア、都市再開発、海外建築・土木 |
| 大成建設 | 大型案件、建築・土木、再編、品質管理が論点になる会社 | 品質管理、ガバナンス、海洋土木強化、現場責任 |
| 竹中工務店 | 非上場の建築名門。財務比較は限定的だが、建築志向では重要 | 建築中心、非上場ゆえの情報制約、設計施工、採用・配属確認 |
鹿島建設は、スーパーゼネコンの中でも、規模、土木・建築の総合力、海外事業、開発事業を兼ね備えた最大級の会社である。しかし、それは「安定して楽ができる」という意味ではない。
鹿島を選ぶとは、スーパーゼネコンの中でも、巨大な現場責任、契約責任、海外リスク、協力会社管理、安全責任を大きく背負う会社を選ぶことである。規模が最大級であることは、背負う責任も最大級であることと表裏一体である。
スーパーゼネコンの比較で見るべきことは、会社名の格ではない。問うべきは、自分が、土木に行きたいのか、建築に行きたいのか、開発に関わりたいのか、海外に出たいのか、巨大な現場責任を背負いたいのか、それとも設計・技術を磨きたいのかである。
第5章 文系・技術系は鹿島建設で何を背負うのか
文系人材が鹿島建設で担う仕事は、本社の机上職だけではない。鹿島建設の新卒採用情報では、事務系社員のキャリアについて、建設工事を経理、総務、法務、人事などの側面から支える「現場事務」から始まる、と説明されている。
現場事務とは、建設現場の経理、総務、労務、契約、支払、協力会社への対応、安全に関する書類の管理などを担う仕事である。文系であっても、現場に身を置き、現場を支える実務からキャリアが始まる可能性がある。
営業は、大型工事の受注に向けて、発注者対応、技術提案、価格、契約を扱う。法務・契約は、国内外の巨額の契約、クレーム、訴訟、コンプライアンスを扱う。経理・財務は、工事の進行、受注、原価、キャッシュフロー、海外リスクを扱う。海外部門では、英語、契約、現地法人の管理、リスク管理が求められる。
つまり、文系でも、現場、契約、数字から逃げられない。「文系だから現場や数字は関係ない」と考えて入ると、現実とのギャップに直面する。逆に、文系でありながら現場と契約と数字を理解できる人材は、この会社で強い。
技術系人材が担う職種も、多岐にわたる。土木施工管理、建築施工管理、設備施工管理、建築設計、構造設計、建築設備、土木設計、研究開発、DX・BIM/CIM・ロボティクス、品質管理、安全管理、環境などである。
中でも施工管理は、技術系の中心的な職種だ。ここで理解すべきなのは、技術系であっても、技術だけをやる仕事ではないということである。施工管理では、工期、原価、品質、安全を管理し、その上で、協力会社、発注者、近隣住民、行政といった多くの関係者を動かさなければならない。
特に鹿島建設のような巨大ゼネコンでは、扱う案件が大きいほど、技術力だけでなく、マネジメント力が問われる。何百人もが関わる大型現場を、安全に、高い品質で、決められた工期と原価の中で完成させる。これは、技術の知識だけでは到底成立しない。
第6章 ここから先で確認すべきこと
ここまで見てきた通り、鹿島建設は、規模、土木・建築の総合力、海外事業、開発事業を兼ね備えた、スーパーゼネコン最大級の会社である。
しかし、就職・転職先として本当に見るべきなのは、「鹿島建設はすごい会社か」ではない。
見るべきなのは、自分が鹿島建設で、どの責任を背負うのかである。現場責任なのか、契約責任なのか、安全責任なのか、工期・原価責任なのか、海外リスクなのか、開発事業の責任なのか。
フル版では、以下の論点をさらに詳しく扱っている。
- 鹿島建設のリスク:現場負荷、不採算工事、事故、安全責任、契約、独禁法、政治との距離
- 下請・孫請・協力会社を束ねる元請責任
- 海外事業と法務・契約管理
- 鹿島建設で得られる経験と市場価値
- 鹿島建設に入るメリットと注意点
- 新卒で選ぶべき人・慎重に考えるべき人
- 転職で選ぶべき人・慎重に考えるべき人
- 鹿島建設を選ぶべき人・慎重に検討すべき人・選ばない方がよい人
無料版で読めるのは、ここまでです。
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引用元・参照資料
鹿島建設株式会社「2026年3月期 決算短信」
https://www.kajima.co.jp/ir/finance/pdf/kessan-20260514-j.pdf
鹿島建設株式会社「2025年度 決算説明会資料」
https://www.kajima.co.jp/ir/presentation/pdf/presentation-20260514-j.pdf
鹿島建設株式会社「統合報告書2025」
https://www.kajima.co.jp/sustainability/report/index-j.html
鹿島建設株式会社「新卒採用情報」
https://www.kajima.co.jp/prof/recruit/new/index.html
鹿島建設株式会社「コンプライアンス」
https://www.kajima.co.jp/prof/governance/compliance/index-j.html
鹿島グループ「贈収賄防止方針」
https://www.kajima.co.jp/prof/governance/anti_bribery/index-j.html
大林組株式会社「2026年3月期 決算短信」
清水建設株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
大成建設株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
竹中工務店「2025年度(第88期)決算概要及び次期業績見通し」
国土交通省 建設投資見通し、建設業の働き方改革、公共工事、国土強靱化に関する資料