簡易版:非会員用
日本の賃上げは誰を救い、誰を取り残したのか【簡易版:非会員用】
50代前半に現れた「構造的逆行」
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2020年・2025年速報)/第一生命経済研究所・熊野英生「世代間賃金格差は残っている」(2026年2月5日)。
この簡易版で扱う問い
近年、日本では「賃上げの時代が来た」と言われている。春闘での高水準回答が続き、政府も賃金底上げを政策の柱に掲げている。
しかし、その言葉をそのまま信じる前に、一つのデータを見る必要がある。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(大卒・男女計・一般労働者・所定内給与)を2020年と2025年で比較すると、ほぼすべての年齢階級がプラスを記録する中、ただ一つの例外がある。
50〜54歳:▲1.3%。全年齢階級の中で唯一のマイナスである。
20〜24歳が+15.8%という大きな上昇を記録し、45〜49歳でさえ+5.0%のプラスを維持している。その一方で、50〜54歳だけがマイナスに沈んでいる。
つまり、賃上げは全員に配られているわけではない。選別されている。
武山原則:感情で動くな。勘定で動け。
第一章 この話は印象ではなく、統計の事実である
本稿は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2020年(令和2年)・2025年(令和7年・速報)と、第一生命経済研究所・熊野英生氏の分析をもとにしている。
比較対象は、大卒・男女計・一般労働者・所定内給与である。全学歴・全雇用形態を含む日本全体の賃金動向をそのまま代表するものではないが、同じ条件で年齢階級ごとの変化を見るには有効な比較である。
この話は「最近の50代は厳しそうだ」という感覚論ではない。一次統計と二次分析に基づく構造の話である。
第二章 数字が示す現実:50代前半だけが沈んでいる
2020年から2025年にかけての年齢階級別賃金変化率(大卒・一般労働者・所定内給与)は、次のように整理できる。
| 年齢階級 | 賃金変化率(2020→2025年) |
|---|---|
| 20〜24歳 | +15.8% |
| 25〜44歳 | 各年齢階級ともプラス |
| 45〜49歳 | +5.0% |
| 50〜54歳 | ▲1.3% |
| 55〜64歳 | プラス(再上昇) |
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2020年・2025年速報)、第一生命経済研究所・熊野英生(2026年2月5日)をもとに整理。対象は大卒・男女計・一般労働者・所定内給与。
「伸び率が低い」ではない。「唯一のマイナス」である。しかも、前後の45〜49歳も55歳以上もプラスを保っている。50〜54歳だけが、賃上げの波にのれていない。
この「異常値」は、偶然ではない。構造が生み出した必然である可能性が高い。
第三章 賃上げは「底上げ」ではなく「選別」である
「賃上げが進んでいる」という言葉は正しい。しかし、全員に届いているわけではない。
20〜24歳が+15.8%の恩恵を受けている一方で、50〜54歳は▲1.3%である。これは「同じ波の中で上がり方に差がある」という話ではない。波自体が、特定の層には届いていないという話である。
日本企業の賃金政策は、全面的な底上げではなく、対象を絞った選別的な配分になっている。
したがって、「賃上げ時代だから自分も安心だ」という見方は危険である。平均や全体の話がいくら明るくても、自分が「空白地帯」に入っていれば、その恩恵は届かない。
第四章 45歳から50歳の間に「断絶」がある
データの中でもっとも気になるのは、45〜49歳と50〜54歳の差である。
45〜49歳は+5.0%。50〜54歳は▲1.3%。わずか5歳の差で、6.3ポイントの急落が起きている。これは加齢による自然な鈍化とは言いにくい。
背景としては、役職定年制度、管理職ポストの上限、年功テーブルの終端、成果主義への移行などが考えられる。いずれも、個人の努力だけで乗り越えられるものではない。制度設計が生み出した壁である。
問題は「年を取ったから下がった」ではない。45歳から50歳の間に、賃金構造の断絶があるという点である。
簡易版の結論
この簡易版で示したのは、「賃上げは選別されている」という事実の輪郭である。50〜54歳が唯一のマイナスとなり、45歳から50歳の間に構造的な断絶が存在することは、一次統計が示す重要な現実である。
ただし、ここで終わってはいけない。問題は、なぜそうなるのか。そして、自分はどの位置にいるのかである。
無料版で読めるのは、ここまでです。続きを読まないと、ご自身のケースでどう判断すべきかまでは決められません。
【フル版:会員用】で扱う内容
フル版では、この簡易版で触れた「50代前半の構造的逆行」に加え、以下の論点まで整理しています。
- なぜ若手には賃上げが届き、中年層は後回しにされるのか
- 55歳以上の「再浮上」は何を意味するのか
- 就職氷河期世代の傷が、なぜ今も賃金に残っているのか
- 「勤続していれば報われる」という前提がなぜ崩れているのか
- 社内上昇組・停滞組・専門性組・分岐前世代の4タイプ別に、何を選ぶべきか
賃上げのニュースを見て安心するだけでは、自分の位置は分かりません。自分がどの構造の中にいるのかを確認してから、次の判断をする必要があります。