厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によれば、2024年の入職者数は747万3,700人、離職者数は719万5,300人で、入職者が離職者を27万8,400人上回った。常用労働者に対する入職率は14.8%、離職率は14.2%である。産業計の転職入職率は9.7%であり、転職による入職は1割近い規模で発生している。転職は、もはや特別な人だけの出来事ではない。
賃金面でも、意味は変わりつつある。同じ調査では、転職入職者のうち前職より賃金が増加した人は40.5%、変わらない人は28.4%、減少した人は29.4%だった。転職すれば必ず賃金が上がるわけではない。しかし、少なくとも統計上は、「転職=賃金低下」と単純に決めつけられる時代ではなくなっている。
転職年齢も広がっている。doda「転職者の平均年齢調査【2025年版】」では、2025年の転職者の平均年齢は32.9歳で、3年連続で上昇した。25〜29歳が36.1%と最も多いが、40歳以上も17.5%を占める。20代だけが転職する時代ではない。
ここまでの数字だけを見ると、転職はしやすくなったように見える。実際、選択肢は増えている。だが、ここで絶対に誤解してはいけない。転職しやすくなったことと、雑に会社を替えてよくなったことは、まったく違う。
むしろ、転職しやすい時代になったからこそ、キャリアの設計力の差が大きく出る。会社を移る自由が増えた代わりに、移った後に何を得たのか、何ができる人間になったのかを、本人が説明しなければならない。
本レポートの結論は単純である。転職は、次の会社だけを見て決めてはいけない。次の次、つまり三社目に何を持って出られるかまで考えて決めるべきである。
武山原則:感情で動くな。勘定で動け。
転職で本当に怖いのは「失敗」ではなく「次がなくなること」
多くの人は、転職リスクを「次の会社でうまくいかないこと」だと考える。上司と合わない。社風が合わない。成果が出ない。年収が伸びない。たしかに、これらは現実的なリスクである。
しかし、職業人生という長い時間軸で見ると、もっと怖いことがある。それは、失敗したあとに次の手がなくなることである。
転職に失敗すること自体は珍しくない。求人票と現場の実態は違うことがある。前職で通用した進め方が、新しい会社では通用しないこともある。問題は、失敗した後である。
二社目で成果が出なかった。そこで退職を考える。そのとき、三社目の面接で何を語れるか。ここで職業人生の明暗が分かれる。「合いませんでした」「上司と合いませんでした」だけでは、採用側は安心できない。採用側が知りたいのは、その人が二社目で何を経験し、何を学び、次で何を活かせるかである。
転職の本当のリスクは、二社目で失敗することではない。二社目で失敗したとき、三社目に向けて説明できる材料が何も残っていないことである。
「次の会社」だけを見る転職が危ない理由
転職活動中の人は、どうしても次の会社だけを見る。年収が上がるか。会社名が良いか。職種名が格好いいか。勤務地やリモート勤務はどうか。現職の嫌な上司から逃げられるか。これらの条件が大切なこと自体は、間違っていない。
だが、それだけでは足りない。なぜなら、入社時の魅力と、退職時に持ち出せる資産は、まったく別物だからである。
年収が大きく上がる転職でも、任される仕事がその会社固有の雑務ばかりで、外部に説明できる案件も数字も残らないなら、三年後に出るとき職務経歴書には何を書くのか。職種名が「事業開発」「コンサルタント」「DX推進」と格好よくても、実態が社内調整の下働きや資料修正ばかりなら、三社目で語れる実績は薄い。
逆に、入社時の華やかさは小さくても、特定業界の顧客を担当でき、提案から受注まで関われ、数字で語れる成果が残る転職は、三社目で強い。
転職先は、入る前だけ見てはいけない。出る時に何が残るかで見るべきである。
新卒入社の看板を捨てるとは、何を意味するのか
大企業に新卒で入った人は、自分が持っている看板の価値を過小評価しがちである。毎日その会社の中にいると、会社名のありがたみが分からなくなる。配属、上司、給与、意思決定の遅さへの不満が積み重なり、「こんな会社にいても仕方がない」と感じる。
しかし、外から見れば、大企業の新卒入社組という肩書は強い。採用側は、そこに一定のスクリーニングを見ている。同じことは、専門資格、特定業界での経験、前職の顧客基盤、社内での信用、地域での生活基盤にも言える。これらは一種の看板である。転職とは、これらの看板の一部を捨て、新しい看板を作りに行く行為である。
だが、看板を捨てるなら、二社目で必ず別の看板を作らなければならない。一社目の看板を捨て、二社目で何も作れなければ、三社目では「大企業を辞めて、次の会社でも成果を出せなかった人」と見られる。新卒入社の看板を捨てる転職は、単なる脱出ではいけない。新しい看板を作るための移籍でなければならない。
転職は「終の棲家探し」ではなく「移籍」でもよい
多くの会社員は、転職を「次こそ定年まで働ける会社を探すこと」と考える。この発想は自然である。しかし、すべての転職を終の棲家探しとして考える必要はない。とくに30代で外に出る転職は、移籍として考えた方がよい場合がある。
移籍とは、会社を裏切ることではない。自分の腕を磨く場所を変えることである。一つの会社に人生を預けるのではなく、職業資本を積むために場所を選ぶ。
ただし、移籍型キャリアには厳しい条件がある。外に出た瞬間、問われるのは「どこにいたか」ではなく「何をしたか」である。自由に動けるということは、毎回、実績で値踏みされるということである。移籍型キャリアを選ぶなら、出た時よりも、次に出る時の方が強くなっていなければならない。会社を変えること自体に価値はない。価値があるのは、会社を変えたことで、顧客理解、業界理解、提案力、数字責任、専門性が増えることである。
次の5年間で作るべき職業資本
転職後の最初の5年間は重い。とくに30代半ばで転職し、5年後に40歳前後で再び市場に出る場合、採用側の目は大きく変わる。「これから成長します」では弱い。「すでに何ができるのか」「どの業界で戦えるのか」「どれだけの数字を持っているのか」が問われる。転職後の5年間は、漫然と経験を積む期間ではない。次に市場へ出る自分の値札を作る期間である。
その値札になりうる職業資本は、たとえば次のようなものである。顧客の経営課題を案件化する力。大企業の意思決定構造を読む力。無形商材を売る力。社内外の専門家を動かす力。特定業界に強いという業界軸。そして、数字で語れる実績と、次に持ち出せる人間関係である。
これらのうち、自分はどれを、どの順で、どの深さまで作るのか。フル版では、年代別にこの優先順位がどう変わるかまで踏み込むが、まず押さえるべきは一点である。次の5年間で作るべきものは、勤務年数ではない。次に市場へ出たときに売れる職業資本である。
二社目で失敗しても三社目につながる転職先の条件
転職先を選ぶとき、人はどうしても「成功するかどうか」を考える。しかし、本当に設計された転職では、「失敗しても次に説明できるか」まで見る。これは悲観ではない。リスク管理である。
失敗しても三社目につながる転職先には、共通する条件がある。前職の経験と完全には断絶していないこと。職務経歴書に書ける経験(案件・数字・顧客・プロジェクト)が積めること。汎用性のある職種経験が残ること。次の出口が複数あること。そして、失敗理由を構造的に説明できることである。
成功したときだけ美しい転職は、実は弱い。失敗したときにも次の説明が残る転職が、本当に強い。フル版では、どの転職先が「三社目につながる」のか、どの転職先が「詰みやすい」のかを、評価軸ごとに表で整理している。
大企業から外へ出る人の落とし穴
大企業から外(コンサル、IT企業、成長企業、外資、同業他社の中核ポジション)へ出る人は多い。そこには、現職では得られない成長、裁量、年収、スピード、専門性を求める気持ちがある。
しかし、この転職には落とし穴がある。大企業の中で評価されていた力が、外ではそのまま通用しないことがあるからである。大企業の中では、会社の看板、既存顧客、社内の支援体制、上司の後ろ盾が仕事を支えている場合がある。本人は自分の力で仕事をしているつもりでも、実際には組織の信用が大きく効いている。外に出ると、その信用は消える。新しい会社では、自分で顧客を開拓し、自分で提案を作り、自分で数字を作る必要がある。
だからこそ、出口設計が必要である。二社目を選ぶときは、入社できるかだけでなく、そこを出た後にどの市場へ接続するかを見なければならない。
家族・生活責任がある人がやってはいけない高リスク転職
転職のリスクは、本人の年齢や職種だけで決まるわけではない。背負っている生活責任によっても変わる。配偶者、子ども、住宅ローン、親の扶養、健康、地域での生活基盤。これらを抱えている人にとって、転職は自分一人の賭けではない。独身であっても、生活責任が軽いとは限らない。重要なのは、形式的な既婚・未婚ではなく、転職失敗時に誰がどれだけ影響を受けるかである。
生活責任がある人が特に避けるべきなのは、年収だけで選ぶ転職である。年収が100万円上がっても、残業が月40時間増え、休日対応が増え、リモート勤務がなくなり、配偶者に負担が集中するなら、その転職は本当に得なのか。さらに、成果主義の強い会社では、入社時年収が高くても、その水準が続くとは限らない。高年収転職は、年収が高いのではなく、期待値が高い転職である。
家族を守るために年収を上げようとして、家庭を壊すなら本末転倒である。転職の損益は、年収だけでなく家庭損益で見るべきである。
無料版での結論
転職は、入社する日の喜びで決めてはいけない。辞める日の自分から逆算して決めるべきである。その会社を出るとき、自分は何を持っているのか。数字か。案件か。業界軸か。顧客理解か。次に相談できる人間関係か。これらが残るなら、その転職には意味がある。
逆に、年収だけ上がり、職種名だけ立派になり、実際には何も残らないなら、その転職は危ない。入社時には成功に見えても、退職時には空洞になっている可能性がある。
次の会社だけを見るな。次の次まで見ろ。これが、本レポートの判断軸である。
感情で動くな。勘定で動け。
無料版で読めるのは、ここまでです。
この簡易版では、「次の次まで考える」という転職設計の基本構造と、見落としやすい危険までを整理しました。しかし、実際にご自身が今動くべきかどうかは、ここから先を読まないと判断しきれません。
フル版では、二社目で失敗しても三社目につながる転職先と詰みやすい転職先の評価軸ごとの比較表、大企業から外へ出た後の三社目の出口候補と必要な説明材料の一覧、三社目の出口を「同業他社・発注側・関連職種・古巣復帰」の四つに分けて考える方法、出戻り可能性を残す退職の作法、面接で「次の次」を相手に警戒されずに語る具体的な言い方、職務経歴書に残すべき数字・案件・顧客・テーマの整理法、そして失敗した転職を職歴の傷で終わらせない分解の手順まで、より具体的に整理しています。
無料版だけでは、自分がいま動くべきなのか、まず二社目で職業資本を作るべきなのか、どの出口を残して動くべきなのかまでは判断しきれません。
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引用元・参照資料
厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
パーソルキャリア株式会社/doda「転職者の平均年齢 年代別の転職活動のポイントは?【最新版】」
https://doda.jp/guide/age/
リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2026年度見通し、2025年度上半期実績、正規社員)」
https://www.works-i.com/surveys/report/20260209_midcareer.html
マイナビキャリアリサーチLab「アルムナイ採用の現状とは」
https://career-research.mynavi.jp/column/20240826_83728/